クリニック通信Clinic Letter

8月の診療室だより

Sさん(86歳)の奥さんは2回目の脳梗塞後施設に入所して5年になります。自力歩行はできず車椅子生活です。Sさんが施設に訪問するごとに、「こんな狭い所に5年もいてよく飽きないな」と言うと「もう5年はここに居たい」と言う。「5年たったら88歳だよ、何が楽しいんだか」「ここには人がたくさんいるからね、話もできるしお風呂も入れさせてもらえるし、こんな良い所ないよ。不自由な身体で自宅にいると何にもできないし、家事が全くできないから、できないだらけで旦那には負担がかかりっぱなしだし、会話はなくなるしで。麻痺はあっても話はできるのに、二人きりでいると一人ぼっちで孤独感いっぱいで、いつも死にたいと思っていた。今はこんないいとこないと思っている、天国だよ」と奥さん。
コロナ禍も過ぎ去り施設訪問時間が解除されて久しぶりに夫婦の会話があったSさん。こんな楽しそうに話す奥さんがまぶしく見えるほど。帰り際に「あと5年生きたら一緒に死ぬか」と聞いてみたら、「あんたと一緒に死ぬのはイヤだ」と。「(以前在籍した)日ハムの稲葉さんとなら死んでも良い」と言われ、この後に及んで色気を出す奥さんに愕然として帰路についたのでした。長年連れ添った夫婦といえども去る者は日々に疎しということでしょうか。

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