「先生、わたくし今月で90歳になりました」2年前に右の乳がんの全摘手術を受け、昨年はご主人を亡くしたSさんです。「こんなに長生きするとは思ってなかったけど、周りもそう思ってなかったみたいで、子供達、孫達がお祝いをしてくれたんだけど」と歯切れの悪い返答です。その訳は、お祝いの会での中心話題が何ともっぱら遺言書のことだったとか。そんなことは考えてもいなかったSさん、孫に「おばあちゃんはいつまで生きると?」と問われて絶句したとか。孫はすでに47歳で働いてはいるが母親と同居中、「あの可愛かった孫が」と思ったらショックだったと。「お金に困っているんだろうか? それを言わせる娘の顔をまじまじと見てしまったんです。貧すれば鈍すと申しますでしょう? 自分の娘が、孫が、こんなことを言うなんて、こんなことを考えているなんて、と悲しくなりました」
ご主人の死と自分の乳がんを乗り越えてやっと到った90歳です。喜ばれるとばかり思っていた自分の甘さに愕然とした一時でした。この先、自分の死を待っている人達にどう対応したらいいんでしょうか。禅問答に近い会話に結論はなさそうです。そんな訳で、お祝いの会は早々にお開きとなり解散となりました。勿論、会計はSさんです。