クリニック通信Clinic Letter

6月の診療室だより

今まで不眠など訴えたことのないTさん、今年80歳になって睡眠導入剤が欲しいとのこと。このところ外に出る機会がめっきりと減り、4~5時間歩いてもびくともしなかった健脚の人が、歩いていてふらつきを感じることがあると言います。
大手マスコミ企業に勤め、論説委員を務めるほどの知的世界にあって、かなり華やかといって良い交友関係を誇っていました。奥さんも外国関係の仕事に就いていたため、夫婦ぐるみの集いが連日のように行われていたようです。
庭の木にシジュウカラがたくさん飛来するころ、Tさんは突然、異常な孤独を感じました。仲間の一人が車を手放して来れなくなり、もう一人の仲間は認知症と診断され、家に閉じこもり状態になったと奥さんから連絡が入りました。
知的な話題と談論風発の世界はあっという間に過去の世界へと去って行きました。食道がんの大手術、その後の長期に渡る抗がん剤治療を乗り越えて来たTさんですが、この孤独感はかなり深刻です。加えてこのコロナによるステイホーム、八方塞がりの状態が彼を襲っています。睡眠導入剤一錠が彼の孤独を救ってくれるのか定かではありませんが、コロナ禍ですっかり肥え太った奥さんのいびきからは逃れることができそうです。

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