クリニック通信Clinic Letter

10月の診療室だより

Hさん(85歳)の認知症が発覚したのは、頻尿の薬の飲み忘れがきっかけでした。大量の過活動膀胱の薬が押し入れに入っているのを息子さんが見つけたのです。一緒に見つかった甲状腺ホルモン製剤も大量でした。飲み忘れの結果として生じた尿失禁、以前からあった認知機能の低下の増悪が治療につながりました。ちょうど同じ頃、体重減少が顕著となったHさんの奥さんにも認知症の症状があり、認知症2人の2人暮らしのHさん宅は大混乱となりました。2人の生活が成り立たなくなったのです。
当然、息子さん達はグループホームへの入所を考えました。ところが幸いなことに認知症薬の効果が出始めた結果、奥さんが元々得意だった料理に改めて目覚めたのです。それからは毎日の料理作りが楽しくてしようがありません。「私は料理をするために生まれて来たのよ」と言ってはばかりません。奥さんのお父さんは和食の料理人だったとか。
最近の風潮として、料理を作るのが嫌いで夫婦共々老人マンションに入所するのが多い中で、Hさん夫婦は稀有なる存在といえますが、毎日手の込んだ料理が食べられるHさんに異存がある訳はありません。相変わらず家事は全くせず、ただ食べて寝るだけのHさんですが、楽しい夫婦生活を送っています。認知症同士、以前にも増して全く何もしないが限りなく優しい夫と、料理一筋の奥さんは、診察後、いつも手をつないで帰ります。

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