手を猫に噛まれたとMさんが受診しました。見ると、噛まれた側の肘から手先にかけて赤く腫れあがっています。所謂、蜂窩織炎の症状です。猫にも嫌われちゃったかな、とひがみ気味です。「私の人生、どこで狂っちゃったんだろうね、先生。小さい頃は親に可愛がられ何の苦労もなく育ったから男を見る目がないまま結婚してしまった。見かけは良い人だったけどそれがとんでもない男でさ、よくいうギャンブル狂いだった。マージャン、パチンコ、競馬、何でもやって、気付いたら私が親から譲り受けた家もなくなってたわけ。揚げ句の果ては会社の金使い込んでクビになっちゃって、義理の息子の力を借りて何とか返したけど、何も無くなってしまって。夫婦そろって義理の息子の所に転がり込んだんだけど、恥ずかしいったらないよね。居心地悪いったらないよね。親の威厳なんてこれっぽっちもないんだから。当の本人は認知症になっちゃって施設に入っちゃって、もう踏んだり蹴ったり状態ってこのことだよね。認知症になるが勝ちとばかり……」と次第に興奮状態です。更に続けて「世間では喜寿というお祝いする歳になったのに、私ときたらお祝いどころか猫に噛まれて熱にうなされた散々の年の暮れさ。来年が良い年になるこれっぽっちの希望もない」と、ぼやきぼやきで帰宅の途につきました。減量を希望していた血圧の処方変更はしばらく見送られそうです。