クリニック通信Clinic Letter

4月の診療室だより

腰の痛みが治まらないとぼやくYさん、70歳になったしもう潮時かなと。個人営業の宅配業者をしており、近隣の市営住宅を中心に日用品や食材を届けています。宅配に頼る市営住宅の住人のほとんどは80歳台の高齢者です。5階以上に住む老人のほとんどは独居、エレベーターがなく階段の上り下りは不可能です。中には入居後20年以上、階下に下りたことがない人も。こんな住人の最大の援助者は宅配業者。この人たちの存在を抜きにして生存することさえ難しい状況です。高齢者の多くは身寄りがないか、あっても同年代ではサポートを期待できません。孤独死は現実的でいつ起こっても不思議ではないと住人自体も考えているのが実情です。
玄関扉のブザーを押して人の気配があるまでの間、今日も何事もなかったようだとホッとする瞬間があるとYさん。米と玉葱とジャガイモの袋は重く、7階まで必死の思いで運んできました。安否確認もできて一安心です。一週間振りに人と会う住人にとっても言葉を交わす僅かで貴重な時間です。
糖尿病と高血圧を患うYさんにとって、若い時は7階までの宅配は何ら問題なく病気にも良いからと気にもしませんでしたが、70歳を過ぎ長年の宅配業務は腰にきました。今日は仕事を早めに切り上げ仲間と居酒屋で好きなビールをたらふく飲んで、腰の痛みを忘れようと考えています。

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