クリニック通信Clinic Letter

2月の診療室だより

健脚と大食を誇ったKさんですが、今年に入って、歩くとふらつく、立ちくらみを訴えるようになりました。つい最近まで噴火湾の係留地からボートを出してヒラメ釣りを楽しんでいたのですが、90歳の声を聞くようになってから極端に行動が少なくなってきました。愛用のライカを抱え、四季折々の風景を撮って個展等に出品していた趣味を超えた写真マニアもすっかり影を潜めています。
同じく84歳になって趣味を諦めてしまったTさん。きっかけは身体中の筋肉痛を訴え、繊維筋痛症の診断を受けてから。気力の低下が著しく、何もしない日々を過ごしています。趣味の写真はプロ並みでした。凝ったカーボン製の釣具はすでに埃を被っています。片手ハンディだったゴルフも、ここ1年一度もでかけていません。
二人に共通しているのは、仲間がいなくなったことのようです。釣果を披露して刺身をつまに飲み交わす仲間、写真を前に批評し合う仲間の存在がいなくなって、共通の話題で話すことがなくなってしまった結果は孤独の2文字でした。一時Kさんの所属するライカクラブは180人を超す大世帯でしたが、昨年の段階で総勢8人に激減し解散となりました。
認知症のない高齢者の行き場がなくなっています。介護保険で提供するデイサービスはこの人たちを満足させるものではありません。KさんもTさんも「早く認知症になってお遊戯を楽しめるといいんだけどね。あちらの方がずっとこの世より友達が多くなったから早くお迎えが来てくれればいいんだけど。今の楽しみはそれだけ。三途の河の渡し賃は十分用意したつもりだけど円安は関係しないんだろうか? 仲間の待つ向こう岸で、皆と釣りをするのが楽しみだ」

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