クリニック通信Clinic Letter

9月の診療室だより

深夜1時、空腹を覚えたKさんはおもむろに布団から起き出し食卓に向かいました。暗闇の中でも食卓テーブルの上にある目的物はすぐ分かります。好物のクリームパンを手にしたKさん、数口で平らげ再び布団に潜り込みました。
塗装業を営むKさん、最近では足場に上ることを仲間から禁じられています。自分でも足場に上ると眩暈を感じて、長年親しんできた足場から遠ざかることが多くなって来ていました。原因は肥満と高血圧であることは本人も充分承知しています。Kさんの住むR市は以前はニシン漁で栄えた港町です。Kさんの自宅はその高台に建ち、浜全体を見渡す絶好の立地条件を有しています。晴れた日の浜は遠くに石狩、後志の山々を背景に正に絶景、Kさん宅を訪れる人は口々に感嘆の声を上げるのがKさんの自慢の種になっています。こんな素晴らしい所に住みながらKさんはほとんど歩いたりすることがありません。100m先のコンビニに行くのも車を使う始末、もちろん目の前の浜の散歩など。都会人から見たら希望の地にありながら全く利用していないことに不思議としか言いようがない苛立ちを感じ得ません。こんな贅沢をKさんに感じさせたい、浜辺を歩くKさんを見てみたいという思いで、深夜のクリームパンをやめたら体重は10㎏くらいすぐ減りますよ、と言ってみました。 
 夜起き出して菓子パンを食べた記憶は全くないんだよね、朝起きてパンが無くなっているのを見て初めて分かるとか。パンを買ってテーブルに置く奥さんが悪いとの事。体重が減って足場に戻れる日は限りなく遠い様です。

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