クリニック通信Clinic Letter

3月の診療室だより

90歳になるAさんがいつものように押し車を押しながらやって来ました。わしゃ充分に生きたからこのあとはあんべい良く殺してくれやと相変わらずの申し出です。わしにも色々世話になった人がいて今のうちに礼をしておきたいから香典を先にくれとの事。先生は何人も看取っていて、死んでしまった人1人1人に香典を渡すなんてことはないだろうから今のうちにもらっておこうかと思った由。今だから相場の3割引で良いと真面目な顔で手を出しました。早割だから予定の日に死ななくても香典は返さないとの事。

診療の中でのこのような会話は、一般的は死への恐怖を持たないお年寄りの存在と、生と死での境界が限りなくなくなっている次元を超えた存在に自身を置くことが出来るようになっている超越の空間なるものがあるようです。

この開き直りとでもいうべき生き方にはかなり魅力を感じますが、なかなかその域に達するのは難しいようで、相変わらず煩悩との格闘の毎日になってしまっているのが現状です。

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