クリニック通信Clinic Letter

10月の診療室だより

今日も黒の古ぼけた長靴を履いたTさんが前屈みになりながら受診に訪れました。この薄汚れた、かつては光沢があったと思われる長靴はTさんのトレードマークです。偏平足と外反母趾のため、何十年もの間、夏も冬も履き続けており、ある種の異臭が立ち込めます。今年93歳、慢性の心不全と腎機能不全はTさんの身体をむくませ、大好きな漬物がそれに拍車をかけます。足のむくみは朝と晩で増減するため、大き目の長靴はフリーサイズのズボンの役割を果たしているようです。

 Tさんは毎日近くの病院に入院中の奥さんに会いに車で出かけます。近くに身内もなく奥さんに会いに行くのが日課になっています。93歳の運転するおんぼろ車が今日もクリニックの駐車場に入って来て、人懐こい笑みを浮かべたTさんが玄関に到着しました。どしゃ降りの雨で、あの長靴で歩くたびにビチャビチャと音がします。今日も無事に奥さんの所へ行けたようです。長靴おじさんは今日も健在、意気軒昂です。

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