クリニック通信Clinic Letter

8月の診療室だより

 Aさんの受診はご主人への愚痴から始まります。つい最近も、食事中にむせて一時呼吸困難になりました。83歳になるAさんはC型肝炎を有する患者さんですが、見かけは元気そのものです。しかし咽頭の反射はさすがにおちているようで、誤飲、誤嚥はしばしばのようです。そんな様子を側にいるご主人はすっかり慣れっこになっているようで、その日も慌てることなく落ち着いたもの。一方のAさんは息が出来ずにその状態を知らせようと足をバタバタさせますが、ご主人は知らぬ顔。ヒューヒューする息切れの呼吸音はTV観戦中の難聴のご主人には全く聞こえない始末です。呼吸困難が極まったその時、Aさんはばったりその場にうつ伏せに倒れました。その途端、詰まっていたポテトがポトリ、一命を取り留めました。

 涙をためて冷静なご主人の仕打ちを訴えるAさん、本当に難聴なんでしょうかとご主人の難聴に疑問を投げかけます。謡に打ち込んでいるご主人に側で苦しんでいるAさんの呼吸困難で発する音が聞こえないとも思えませんが、安易に同調することはあえて避けました。いつの時代も、いくつになっても、夫婦喧嘩に巻き込まれることは避けなければなりませんから。

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