クリニック通信Clinic Letter

2月の診療室だより

Yさん87歳は話し方も動作もゆったりとしたご婦人です。1月始めの春の訪れを感じさせるような日の最初の患者さんがYさんでした。診察室のドアを小さくノックしてそっと入って来ました。「明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます」と丁寧なご挨拶に続いて、いつになくそそくさとした感じで、「先生わたくし一年前に胃癌の手術を受けましたの。胃癌の手術を受けると味が変わると申しますでしょう? わたくし少し期待してたんですの。食べる量が減って糖尿病が良くなるんではないかと。でも、わたくしの場合何にも変わらないんですの。大好きな和生(わなま)もやっぱり好きで止められないです。わたくしの糖尿病は如何でしょうか?」。昭和の初期の小津安次郎の映画に出て来る山の手のご婦人の話し方を思わせる独特の抑揚です。
「疑ってる訳ではございませんが、本当にわたくしの胃癌の手術は行われたんでしょうか? お腹にはほとんど傷がありませんし」と真顔です。内視鏡手術の発達のおかげであらぬ疑いをかけられたようですが、こんな疑問を口にする人は初めてです。また一方で胃切除後にこんなに調子が良い人も珍しい。時代のずれたムードにすっかりペースが狂ってしまった本日の診療開始となりました。穏やかな新春の手稲山クリニックのスタートです。

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