80歳のTさんの1日の始まりは暗闇のAM2:30、タバコを1本深々と吸って家を出ます。新聞配達の仕事を始めて15年、すっかり身体にしみ込んだ朝の仕事の始まりです。今朝の配達軒数は190軒、ここ2~3年で2倍になりました。配達員の高齢化による減少が原因です。来月になるとあと2人の欠員が出るため、Tさんの負担は500軒に迫ろうとしています。190軒でも5時間半を要する配達時間、500軒になったら午前中一杯かかってしまうことになりそうです。「80歳になっても配達員やって500軒配るちゅうのはギネスブック並みだと思うよ。その体力がまだ残ってるちゅうのは誇ってもいいんじゃないか?」とTさん。
高齢化は配達員ばかりではありません。新聞を唯一の情報源としている高齢者は多く、新聞の届くのを玄関先で待ち受けるお年寄は多数います。待っているはずのお年寄がいない時はメモを置いていきます。先日は家で倒れている人が救出されました。孤独死と向き合う高齢者の見守り役も果たしているTさん。簡単には辞められない状況です。
趣味らしきものを持たないTさんの唯一の楽しみはタバコです。家の中でも吸いますが、喘息持ちの奥さんの手前、自室で吸うことが多く、居間のテレビの前では控えています。というより、目の前で吸うと奥さんの喘息発作が起きるので、夏は暑く冬は寒い自室で吸わざるを得ません。「がんがんタバコを吸って新聞配達をやりまくって、こんな人生もあっていいんじゃないの」とうそぶくTさんです。