クリニック通信Clinic Letter

8月の診療室だより

Tさんの船倉にはアライグマが棲んでいます。毎年、稚内祭りのあるこの時期は漁がないので、ノコノコと船倉から出て、いづこかに行ってしまいます。漁が始まると、不思議と元に戻っているとか。
籠から落ちたツブ貝をカラスがさらっていきます。ツブ貝をくわえて高く舞い上がり、コンクリートに落として殻を壊して食べる習性はカラス独特のものでしたが、最近ではカモメも真似をするようになったとか。それを眺める漁師たち、北国の漁師はあくまでもおおらか。のどかな風景です。動物たちとの平和共存がこの土地ではできあがっているようです。
山背の吹く荒れ模様の今朝の海を眺めていたTさん、急遽出漁を取りやめ札幌行きを決めました。午前3時半、Tさん夫婦は札幌のクリニックに向かいます。ヘッドライトの前方には大きなシカの影が横切ります。横断歩道の信号よりシカの横断の頻度が多く、稚内を出るまでは要注意です。数日前にはシカの後ろ脚で前照灯のライトウォッシャーが蹴られ、破損しました。すっかり野生王国化した感のある稚内市街。日課の夕方の散歩にはクマよけスプレーと鈴は必需品です。国道を歩くのは、人間より動物が幅をきかせています。シカ、アライグマ、キツネ、タヌキと多数、人間の住む領域が次々と狭くなってきています。どこまで平和共存が進むのか、漁師の町稚内は悩んでいるようです。
キッチンをのぞくシカの顔、この頃の毎朝の光景です。どうもTさん宅の庭に定住してしまった感があります。Tさんの奥さんが大切にしているチューリップの花壇は、球根が掘り起こされ食べられています。昨年に続き、今年もチューリップは全滅です。「こんなとこ、日本中でも珍しいんじゃないですか?」。奥さんの血圧は上がりっぱなしです。

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