クリニック通信Clinic Letter

7月の診療室だより

小さなボンボリをのっけたようなまんまるの帽子にふわふわのシャツ、長いスカートの洒落た衣装の可愛いIさんが診察室のドアをたたきます。「先生、私今日で後期高齢者になったんですよ!ずっと前からこの瞬間が待ち遠しくてしょうがなかったんです。何か新しい自分に生まれ変わるような気がして、新しい景色が拡がるんじゃないかと思って」。
後期高齢者は役立たずとか年寄りの烙印を押された感じがあり、免許証の更新には認知症テストがあるしで、落ち込ませる要因が多いようです。75歳とともに急に老け込んだ感じのSさんは食欲がなくなったようで体重が5kgも減ってしまいました。何やら歩き方もヨボヨボして来たようです。ある日の診察時には杖をついて来ました。75歳の歳を境に子供達の攻勢が目立つようになります。東京にいた息子夫婦が定年とともに札幌に戻り、実家のSさん宅に介護目的に引っ越して来ました。今までいた広い居間を追い払われ、息子夫婦に乗っ取られてしまいました。運転免許返納を迫られ、最近購入した新車も取られてしまう始末です。後期高齢者の烙印は社会からの抹殺も意味しているのでしょうか。
一方のIさん、今日は帰ったら家の改造に取りかかります。「雑草だらけだった庭はバラ園にしようと思ってるの。イギリス風の庭園造って皆が見に来るような場所にしようと思い立ったの。出来上がるのに何年かかるかな、生きてるうちに何とかしなくちゃ」。天真爛漫なIさんは今日も元気です。

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