爆音のようなエンジン音が鳴り響き、またかとぶつぶつ言いながらOさんは起き上がって窓を閉めました。このところ、週末になると朝からこの騒音です。札幌に近い山裾にあるこの街は、30~40年前に造成された洒落た住宅街です。海を遠望できる木々に囲まれた絶好の景観に魅せられて30年前に移住したOさん、当初は同年代の家族のまとまりも良く、理想的といえる住環境でした。年月が過ぎ、高齢化が進み、冬場の除雪負担に耐えられなくなり、約半数の家族(ほとんどが高齢の夫婦)が麓のマンションや札幌市内に転居してしまいました。その空家に移り住んだ若者夫婦、この人たちの趣味が改造車作成でした。札幌市内では騒音発生のためなかなか自由に造れない改造車を、ここならあまり気兼ねなく造れるという触れ込みで仲間が集まり、さながら改造車部落になってしまいました。
空家が多くなった集落にさらに変化を与えたのが、広がった、一部は放置された家庭菜園に集まる動物たちです。春先の緑の少ない時期に、家庭菜園の緑は野生動物にとって最高のごちそうです。シカ、アライグマはもとよりキツネ、タヌキ、テン、ミンク等々が矢継ぎ早に入れ替わり立ち替わりにやって来ては菜園を根こそぎ荒らしていきます。住民の数より明らかに動物が多い状態となってしまいました。キッチンの窓から中をうかがうシカの顔、防戦に次ぐ防戦ですっかり疲れ果てたOさん。持病の高血圧は不眠と疲労で悪化の一途です。今年退職を迎え、年金暮らしとなったOさんにとって厳しい老後が待ち受けている矛盾を感じています。