クリニック通信Clinic Letter

1月の診療室だより

2カ月に一度受診するIさん、89歳。言葉を選ぶようにゆっくりとした口調で話します。3年前に御主人を亡くして以来、広い家に独り暮らしの毎日です。2週間誰とも話していません。だから今日の受診は貴重な、とても大事にしている受診なんです、との事。必然的に、受診される側の当方の口調もゆっくりと言葉を噛みしめる感じとなってしまいます。腰から下が不自由なため車椅子移動、自宅ではなんとか伝え歩き状態で必要最小限の家事を行っているとか。こんな状態の多くの高齢者は一日の大半をTVを観て残された時間の時間つぶしを日課としていることが多いようです。一度ならず孤独死の文字が頭をよぎると言います。
 一方のIさん、かごの鳥状態の3年間、ほとんどTVを観ることがありません。道路に面した居間の窓越しに道を歩く小学生の服装や華やいだ笑い声に季節を感じます。雪の舞う季節も、どしゃぶりの雨の日も、暖かい日差しが居間を被う日も、Iさんは独りでいることの寂しさを感じることはないと言います。2週間に一度は入浴サービスがあり自宅で入浴が出来ます。散髪も2カ月に一度は自宅で受けることが出来ます。宅配サービスで食材は置いていってくれます。何も困ることはありません。陸の孤島にいるようなものですが、窓から感じられる季節の変化、時折聞こえる話し声で十分満足しています、と言います。
 昨日散髪したIさん、襟元もすっきりしていつもより華やいで見えます。今日の受診を1ヶ月前から楽しみにしていました。外はクリスマス一色、行き交う人々の声も華やいで、帰りには介護タクシーにケーキ屋さんに寄ってもらおうかな。

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