クリニック通信Clinic Letter

7月の診療室だより

 肺癌の手術を受けたあと、Uさん77歳はすっかり自信をなくした様です。毎日歩いていた日課もやめてしまい、好きな酒もほとんど飲まなくなってしまいました。手術後はタバコもやめたため、毎日の生活はすっかり以前と変わってしまいました。肺癌手術後3年を経過しましたが、再発もなく経過は順調にも拘らず、毎日ダラダラとテレビを観るばかりの生活です。

 そんなある日、Uさんは奥さんに、函館に行って新幹線に乗ると言い出しました。言い出したら即行動するのがUさんの性格です。少しびっくりしたものの、やれ、いつものUさんに戻ったと奥さんはほっとしてそそくさと準備、その日のうちに函館目指して車で出発しました。函館まで5時間の道のりは以前に何回も通い慣れた行程でした。ところが北斗駅に着いたのは深夜、予想以上にかかったのは新しい北斗駅がわからなかったためです。息子さんが付けてくれたカーナビは使い方がわかりません。深夜の函館周辺を回り回った結果、車で野宿。新幹線に乗るのも大変でした。スマホも持っていますが、ホテルや新幹線の予約方法がわかりません。電話機能しか使っていないのに、高いスマホ利用料を払っているのに使い方を教えてくれないとぶつぶつ言って持ち歩いているだけなのです。

 でも何とか新幹線には乗ることが出来ました。乗った区間は北斗駅から新青森まで。この先10年は札幌まで来ることのない新幹線に乗れてよかったとの弁。死ぬまでに一度乗りたかったという行動派のUさんにとって新幹線搭乗は新たな生きがいの出発点になることを家族は期待していたようですが、帰札後のUさんに変化はなく、相変わらずテレビを観る毎日のようです。

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