65歳になるSさんがいつものようにベッドから身を起こした、正確には起きようとした時、自分の身体が自分ではない感覚をおぼえました。左半身が動 かないことに気付くのに左程時間はかかりませんでしたが、自分がその様な状態になっていることの実感がわかず、再びベッドに横になっていました。
総合病院脳外科での治療で周囲が驚くほどの回復を示し2週間後には退院となっておりましたが、担当医を含めて、なぜ脳梗塞がSさんに起こったのかが問題 となりました。一般的に脳梗塞を生じる原因として基礎疾患の存在があり、多くの場合究明は左程難しいことではありません。しかしSさんの場合、軽度の高血 圧以外は見当たらないのです。
循環器内科での慎重な心エコー検査でひとつのことがわかりました。Sさんの心臓の壁に小さな穴(卵円孔)が開いていることがわかったのです。原因不明の 脳梗塞の半分以上にこの卵円孔の開存の存在が指摘されており、おざなりでない慎重な聴診で診断が可能とも言われています。聴診器ひとつで診断が可能な、こ んな病気があることを改めて教えてくれた症例でした。