クリニック通信Clinic Letter

10月の診療室だより

「先生、しょんべんの出が悪くて、行っても、出ねえんだ」
 電話から、いつものように大きなTさんの声が聞こえてきました。稚内の近くの漁師さんからです。海が時化ってるから(船が出せないので)直ぐにやってくるとのこと。
 聞けば症状は1週間ほど前からあり、夜も眠れないとのことで、膀胱炎に違いないと言います。よく発症の状況を聞いてみると、ここ1ヶ月位、排便の状態が 悪くて、トイレに閉じこもる状態が続いていた後からとの事です。肛門を含めて診察したところ、下腹部の強い圧痛と肛門内部の腫れを認めました。
 ある疾患を念頭にCT検査をしてみました。予想通り、肛門から広範に大腸の壁が厚くなっており、空気が入っているような変化が認められました。”腸壁嚢 胞状気腫”これがその病名です。原因は不明のことが多いのですが、便の出が悪いときの長時間のいきみが腸管内のガスを腸壁に漏出させ、ぶよぶよの腸壁の腫 脹を引き起こし、腫れた腸管が膀胱を圧迫するようになるようです。
 Tさんの尿は、勿論、汚れはなく、緩下剤の服用で次第に症状が消失しました。トイレでの過剰ないきみは、こんなことも起こすことを知っておくべきでしょう。

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