クリニック通信Clinic Letter

11月の診療室だより

足の調子が良くないのか、右足を庇うように入ってきたSさん76歳。いつものように猫背の身体をさらに丸めて、少し前に手稲に着いた様子です。日本海側のR市からSさんは定期的に受診します。時には月2回も。長距離運転が原因で足の静脈に血栓ができる深部静脈血栓を患い、血栓溶解療法を受けています。足が腫れてくるため弾性ストッキングの着用は暑い夏の間も必須です。
朝一番の受診からすると、いつものように札幌在住の娘さんからいろいろ依頼されたようです。様子を尋ねると、依頼とは名ばかりでほとんど命令のようです。今日の受診後は東区の娘さんの所へ行き、彼女の車の洗車、ガソリン補給、終わったら風呂の掃除を頼まれているとか。ほとんど召使い状態ですがSさんはあまり苦にしていないようです。終わったら娘さんと焼肉に行くのが楽しみとか。男親の悲哀を感じさせられますが、ニコニコ顔のSさんにとやかく言う気持ちにはなれません。
「この間、免許証更新したんですけど、認知症テストの結果がギリギリでもう少しで再検査になるところでした。免許証返納ということになれば札幌に来れなくなるし、今一番の心配です」。親離れ、子離れのできない時代の風潮か、というより底抜けに気が弱くて優しいSさんならではの行動形態なのか、不安を抱えていそいそと娘さんの所へ向かうSさんです。

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