クリニック通信Clinic Letter

7月の診療室だより

「私の男としての尊厳が脅かされているんです」と受診早々大層な剣幕です。Oさん67歳に起きた大事件は、ある新聞報道が発端でした。その報道とは「便器を汚さないために立位排尿を改め、男性も座って排尿すべし」との論調でした。コロナ真っ只中での感染予防も念頭にあったものと思われますが、Оさんの奥さんと娘さんはその報道に待ってましたとばかりに反応したのです。Оさんがトイレに入ると、外から「座って排尿」との声がかかります。元々前立腺肥大症のОさん、立位でようやく用を足していた状況でしたが、座位では腹圧が膀胱にかからず尿勢は激減、ちょろちょろ排尿となってしまいました。止むを得ず便器の洗浄当番を申し入れ回復を図りましたが、便器洗浄の業務が増えただけで事態の改善なく悪化の一途です。どうにも我慢できない時は近くの体育館のトイレに駆け込みます。立ってする排尿の喜びに包まれる瞬間です。「ここのクリニックに来るのが楽しみなんです。立って排尿できますから。でもいずれは日本のトイレから立位式の便器がなくなるかもしれないという不安があります。日本の前立腺肥大症の男性は身近に迫る危機に怯える日々を送っていると思いますよ。先生もお大事にして下さい」と脅しとも取れる言葉を残してОさん帰宅です。

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