クリニック通信Clinic Letter

6月の診療室だより

心不全で利尿剤使用中のTさん84歳がやってきました。いつになく倦怠感と息切れの訴えに何やら事件の発生をうかがわせます。問うまでもなく奥さんとの大喧嘩があったとのこと。このところ近くのスーパーの総菜など出来合いの物が多く、文句を言ったら言い合いになってしまったというのです。「先生にはいつも塩分を控えめにしてくださいと言われているからそのことを言っただけなんです」と。奥さんの言い分は、「心臓が悪いのは貴方の勝手ですから、私は塩気のない食事は作りたくも食べたくもありません。貴方のためだけに作る食事はありません。飯炊き女じゃありませんから」。
Tさんは、「子供たちがいなくなって、さらに定年退職後は極端にこの傾向が酷くなって、このまま行くと早晩私はじめじめと心臓死に向かって追いつめられるのは確実なんです」と一段と息苦しさが増すようです。年金があるから何とか生かさず殺さず状態が続いているとのこと。「永く生きているといろんなことが起こるけど、人生の最後の方に来てもう少し楽な生活したいなあ」と、Tさんは強化された利尿剤の処方箋を手にしました。「次の予約日に受診しなかったら不幸な結果になったと思ってください」と何とも物騒な言葉を言い残して帰宅しました。

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