クリニック通信Clinic Letter

3月の診療室だより

 持病となっている不整脈が最近ひどくなってきている、とSさんが突然受診しました。聞けばあまり良く眠れないとの事。大きな図体を少し屈み気味にして診察室に入って来ました。建築業で鍛えた身体は肉付きも良くとても不眠や不整脈で悩む人には見えません。原因となっているのが深夜に来る除雪車、午前3時頃になると決まったようにやってくるのですが、問題はそれに合わせたように奥さんが起き上がり、家の前に積まれた雪の始末を始めるというのです。Sさんの奥さんはほっそりとした身体でとてもママさんダンプを自在に操るようには見えない方です。そんな彼女が深夜に獅子奮迅の働き、Sさんとしては心配でとても眠ってはいられませんが、自分の不整脈も心配で悶々とした時間を過ごすというのです。今年80歳、仕事を離れて10年、3歳下の優しい奥さんに支えられて優雅な老後を夢見ていたSさんの生活は、除雪権という北国特有の役割が終わった頃から微妙に変化して来ました。今までは頭ごなしに命令調に指示していた家事も次第に無視されるようになり、Sさんの食事とは関係なくワインを楽しむ奥さんがそこに居ました。 今年一番の寒波の襲来で今夜も雪、不気味な音を響かせて除雪車の到来です。早くも奥さんは出陣準備、そんな彼女を横目で見ながらSさんは寝たふりで寝返りをうちました。動悸がします。

 翌日の朝は雪も止み、寒さは厳しいですが札幌らしい冬の朝でした。先生、どうしても眠れなくて動悸で胸が苦しくなります、手稲駅前の心療内科を受診したいんですけど紹介状書いてもらえませんか?

一覧へ戻る