クリニック通信Clinic Letter

2月の診療室だより

 86歳になるSさんは、スマホを自由に扱い、化粧も決まっているスマートなお年寄りです。買い物もスマホ、外出時もスマホで目的地設定と行動も斬新です。そのSさんある日の受診時、“今度先生に死んだ旦那さんの写真を見せてあげる”というのです。次の受診日、スマホを見せて、“ここに主人が写ってるけど見えません?”といいます。そこには彼女のベットが写っているだけで“誰もいないんじゃない?”というと、“やっぱりそうか”と。この間から彼女の隣にいるご主人の写真を撮ろうとスマホで何回か試みたがうまくいかないとの事。あの世の人は写真には撮れないのかなあと独り言。別に悲しんでいる風情もありません。
 現世と来世の区別がつかないこんなお年寄りですが、現世の生活にトラブっている訳でもなく、他の人との付き合いに問題が生じている訳でもありません。金銭トラブルもなく、いわゆる認知症の範疇にも属していません。やはり86歳のYさんは時々携帯で死んだおじいちゃんと話をするとか。現世と来世を自由に行き来しているかのようなこの人達ですが、こんなことを皆に話している訳でもなく、理解してもらえそうな人にだけ話していると言います。もしかするとこの人達だけに見える世界があって、自分はその能力がないから見えないだけということなのかもしれません。地下歩道によく行き散歩しながら時々占い師に見てもらうというSさん、どんな世界を占ってもらっているのか、占い師も困惑を隠せないのではと案じるばかりです。

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