クリニック通信Clinic Letter

10月の診療室だより

 几帳面なKさんが、すでに亡くなった自分の両親やご主人の両親の分の食事を作りテーブルに並べるようになったのは今年の暑い夏のさなかのことでした。日常の生活では特に変化はなく、日々の農作業にも変わったことはないのですが、当初お盆も近くあまり気にもしていなかったご主人も、お盆をとっくに過ぎても続くKさんの行動にはいささか異常性を感じて医療機関に相談することとなりました。

 健忘症がひどくなった家族や親戚との金銭トラブル等々での認知症の発症症状は一般的ですが、Kさんのような発症のしかたは比較的まれと言えます。認知症テストをしても若干の低下を認める程度で画像診断上も特別な変化はないのですが、とりあえず認知症の治療をしてみることとしました。

 最初のうちは何らの変化も起こらなかったのですが、二か月を過ぎる頃から改善するようになり、三か月目には故人の夕食を作る行為は全くなくなったとご主人からの報告がありました。認知症は一般的、典型的なものから、今回のKさんのような症状を示すものまで、かなり多彩な発症形態があることを教えてくれた症例となりました。

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