クリニック通信Clinic Letter

7月の診療室だより

 Aさんは大の麻雀好きです。その日も仲間に誘われ雀卓を囲むことになりました。漁師仲間では麻雀の強さはダントツですが、その日は少し違っていました。最初はいつものように勝っていましたが、勝負が深夜に及び時間が経つにつれ集中力が低下、負けがこんできました。仲間はこの時とばかりやめようという人がおりません。朦朧とした状態で自宅に帰りましたが、それからが大変でした。自分がどこにいるのかわからず、奥さんを見ても反応なし。トイレの場所もわからない始末で、あらぬ所で排尿したかと思えばその辺りをうろうろ歩き回る等々、家の中は大騒ぎとなりました。

 今まで全く異常のないAさんのこの突然の変調は、Aさんの持っている肝臓の病気が原因でした。重症の肝硬変に伴う高アンモニア血症という病態が異常行動を引き起こしたものですが、通常であれば定時に服用していた高アンモニア血症を抑える薬を麻雀に熱中するあまり忘れてしまい起こったものでした。

 認知症とよく間違われるこの病気は治療により速やかに元に戻りますが、この間の出来事は本人は全く覚えておりません。幸いにもAさんの騒動は家族の機転で何事もなく無事に過ぎましたが、ご自分の病気に対する認識不足が引き起こした大事件寸前の出来事でした。

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